「日本人でエンジンをフルに使って走ってやろうという人は少ないですよね。現実問題としてスピード違反で捕まるとか、環境間題とか色々ありますが、それらをすべて除外したら、刺激的な走りを試みたいと考える人は少なくないはず。クルマの一生の間で、1度でも良いから思いっきり走らせてみたいという衝動は誰にもあるはずですからね。インプレッサには、そうした走りにも応えてくれることを求められているのではないかと思うんです」
 そう語るのは、日々走りの良さを求めてテストを繰返すスバル技術本部スバル研究実験センター車両研究実験第一部 主管の辰己英治である。今や定評となったSUBARU車の走り
の良さは、彼の走りに対するこだわりそのものといっても過言ではない。辰己の考える優れたクルマとは、高い運動性能を持つクルマであり、そのキーワードが『速さ』だという。
「ただ速ければ良いというものじゃありません。『早い』という言葉のなかには、「気持ち良く走れる」「安心感が高い」「コントロール性が良い」といった意味が混在していなければならないんです。速くても危険であったり、WRCのドライバーにしか乗れないようなクルマでは困ります。誰が乗ってもきちんと速く、そこそこ刺激も得られるクルマこそが優れたクルマ。それを具現化したのがインプレッサなんです」
辰己が速さにこだわる裏には、自動車開発の聖地、ドイツのニュルプルクリンク・オールドコースとの出会いがあった。ここでの体験は彼にクルマ作りの指針を与えてくれた。

辰己 英治(たつみ・ひではる)
スバル技術本部
スバル研究実験センター
車両研究実験第一部 主管

ドイツ、ニュルプルクリンクを始め世界のテストコース、実験フィールドでインプレッサの走りを磨き上げる。乗り心地性能とインプレッサならではの高次元の走り、その歩行バランスは辰己によってもたらされている。
ニュルプルクリンクだけがすべてではない。
ニューインブレッサの開発では
ヨーロッパの一般道をはじめ
高速テストコースなど
あらゆる状況において
納得いくまで走り込んでいる。
それゆえに世界のどこにもいない
クルマが完成するのである。
 辰己が初めてニュルブルクリンクを訪れたのは20年ほど前に遡る。まだ会社としては、この地でテストを行う認識など、まったくない頃の話である。
「たまたま仕事でドイツを訪れた際に、ヨーロッパのメーカーがテストを行っている面白いコースがあると聞き、レンタカーを借りてプライベートで走ったのが最初です。ともかく凄いところがあるもんだなと思いましたね。その後も出張で訪れては、あまり深く考えもせずに走っていました。しかし、ある時ふと気付いたんですね。アウトバーンを無制限で走れたり、一般道でさえ100km/hでパンパン走れる環境を持っている国のメーカーが、ニュルプルクリンクに来てあれだけ走り回っているのこは、絶対意味があるはずだとね」
 北海道で生まれ育った辰己にとって、かつてはクルマは速く走るのが当たり前の環境があったという。久々に感じたアウトバーンとニュルプルクリンクの鮮烈な体験は、いつしか忘れていた過去の記憶と共に、本来クルマがあるべき方向性と、自らが進むべき道を思い出させてくれたのだった。
 「日本は優秀なクルマを作ってはいるんですが、交通ルール上無理矢理押さえ込まれているというのが実状ですね。文化の違いといってしまえばそれまでですが、ドイツではその持てる力を、どうぞご自由にという感じです。ですから、ドイツを始めとしたヨーロッパ車は、常識で走れる範囲まではフルに誰が走ってもある程度安全に作られてます。そうしたクルマを鍛え上げる場所が、ニュルブルクリンクだったんです」
 全長20.832km、高低差約300m、そのほとんどがブラインドとなる160を超えるコーナー。めまぐるしいミューの変化と起伏の激しい路面。苛烈を極めるその地は、極限状態でのクルマの挙動を顕わにし、それまでのテストコースでは得ることのできなかった課題を次々に突き付けてくるという。
 「ニュルプルクリンクで作ると、一般道で快適に気持ち良く飛ばせる領域が自然に広がるんです。実際問題その領域まで作り」込んで行かないと駄目なんですね。例えば郊外の道を100km/hで走っていて、横から何かが出てきたりと、想像の枠から外れた使われ方というのは必ず起きてくる。ドライバーがクルマに安心感を覚えるか否かは、そうした常識を超えた場面になっても、きちんと応えてくれるかどうかだと思います。ですから、テストというのは『そこまで使わないだろう』という厳しいレペルまで行う必要があるんです。したがって、走りを標傍するインプレッサのようなクルマには、ニュルプルクリンクで鍛えることが必要不可欠なんです」
 ことあることに聖地巡礼を重ねた辰己とインプレッサ。そこで得た貴重な経験は、彼自身の考えや意識に刺激を与えた。そのひとつが、サスペンションセッティングには卓越したノウハウを持つ辰己の、ボディへのこだわりである。
 「ニュルプルクリンクを走り込むうちに、ボディというのが非常に大きな要素を占めているというのが、何となくわかってきたんです。一昨年あたりから、量産車の開発と平行して、ニュルブルクリンクのタイムを出すためのインプレッサ作りにトライしていて、当初はサスペンションのセッティングに力を入れていました。しかし、タイムが頭打ちになってきたので、ロールゲージを入れてガチガチのクルマを作ってみました。ところがボディは固ければ良いというものではないんですね。ガチガチのカートが曲がらないのと同じで、車体がある方向に捻れないと駄目なんです。それでいてある方向にはひたすら固くないといけない。ボディのそういう場所を見つけて行く作業がここでは出来るんです」
クルマ同様に人間をも鍛えると称されるニュルブルクリンク。わずかなクルマの不具合を五感で嗅ぎわける辰己にとって、そこは感覚を研ぎすます修練の場所でもあると同時に、さまざまなことを教えてくれる場所でもあった。
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